CMEは犀の角のように。

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【原著】市中獲得型フルオロキノロン耐性大腸菌と近隣地域の抗菌薬使用量には関連がある:住民対象の症例対照研究

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています

 

以前勤務していた地域ではキノロン耐性大腸菌が多いと感じていました。そしてその地域では、ある医師がキノロンを多用していた時期がある、という噂を聞いたことがありました。実感を持っていたテーマに関連した研究をみつけましたので、勉強しました。

 

【背景】

個人に対する抗菌薬使用量増加はその人(の保有する細菌)の抗菌薬耐性獲得リスクを増やすことは示されているものの、地域での抗菌薬使用量増加がその地域住民個人(の保有する細菌)の抗菌薬耐性獲得リスクを増やすかどうかは、知られていない。

【方法】

階層的多変量ロジスティック回帰アプローチを用い、地域でのフルオロキノロン使用量と住民個人のキノロン耐性大腸菌の保菌・感染リスクとの関連を評価した。住民対象の症例対照研究を行い、対象はイスラエル内のあらかじめ定義された地理的範囲内に住む22歳以上の成人、1733名とした。多層試験デザインを用いて、Clalit州健康サービスで組み込まれた患者の電子カルテ記録に基づくデータを解析した。

【結果】

 30 0105件の大腸菌発育、189 9168件の培養陰性が解析された電子カルテから特定された。27 0190名中4 5427名の女性(16.8%)と2 9915名中8835名の男性(29.5%)がフルオロキノロン耐性の大腸菌を有した。我々が見つけた独立因子としては、抗菌薬使用量の多い地域に住むこととフルオロキノロン耐性大腸菌による細菌尿が、あった。抗菌薬使用量を5分位数に分けた場合の最少使用群と比べた他群のオッズ比は女性ではそれぞれ1.15(95% CI 1.06-1.24), 1.31(1.20-1.43), 1.41(1.29-1.54), 1.51(1.38-1.65)であった。男性ではそれぞれ1.17(1.02-1.35), 1.24(1.06-1.45), 1.35(1.15-1.59), 1.50(1.26-1.77)であった。結果はフルオロキノロンを使用されていない個人に限定した場合も有意差を保った。

【結論】

これらのデータから示されたのは、特定の地理的地域における抗菌薬使用量が増えることが薬剤耐性菌を個人が獲得するリスクと関連する、ということである。そしてそれは個人の抗菌薬使用や既知の薬剤耐性リスクとは独立していた。

 

【まとめと感想】

本研究は観察研究ですから、他に交絡因子を含む可能性は排除しきれません。実際には周辺地域でおこなわれている抗菌薬投与以外に直接耐性菌拡大に関与する要素があるのかもしれません。

しかしながら、「耐性菌は住民レベルで伝播していっているのだ」という説得は、それなりにうなずける気がします。