CMEは犀の角のように。

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【総説】抗菌薬アレルギー

ランセットの総説です。抗菌薬もアレルギーも、科を問わず扱うまたは遭遇するものです。総説をアウトプットするのは骨が折れますが、学んでみました。

 

Antibiotic allergy.

Blumenthal KG, et al. Lancet. 2019.

PMID 30558872

 

序文

不正確に確定(認定)されたアレルギーは、不必要に広域な抗菌薬や弱い抗菌薬の使用を起こしうる。そして患者安全や公衆衛生に脅威をもたらしうる。

 

【分類、表現形、機序】

まず上位分類としてon-target反応とoff-target反応とに分ける。下位分類として、免疫反応と非免疫反応とに分ける。

バンコマイシンとフルオロキノロンは最も一般的に認識された脂肪細胞活性化物である。それらによる反応はIgE非介在性である。したがって免疫学的表現形を示す反応であるものの、免疫学的記憶は伴わない。IgE非介在性反応は心血管系症状がが出にくい特徴はあるものの、IgE介在性反応と区別することは難しい。

【表】

〜IgE非介在性〜

(症候)紅潮、掻痒、蕁麻疹、血管浮腫、ときにアナフィラキシー

(機序)直接的脂肪細胞刺激または好塩基球刺激、皮膚症状→呼吸器症状→心血管症状

(発症までの時間)数分〜1時間

〜抗体介在性〜

(症候)IgE介在性(Ⅰ型過敏反応)、蕁麻疹、血管浮腫、気管攣縮、アナフィラキシー

(機序)高親和性IgE受容体に結合したIgE交差結合経路を通る脂肪細胞または好塩基球の脱顆粒、掻痒、手掌紅斑、鼻炎、喘鳴、蕁麻疹、血管浮腫、アナフィラキシー

(発症までの時間)1時間以内が多いが6時間までは起こりうる

〜IgG介在性(Ⅱ型過敏反応)〜

(症候)血球減少

(機序)抗原抗体反応;IgGと補体を介した貪食または細胞毒性、溶血性貧血、血小板減少、血管炎

(発症までの時間)多くは72時間以内だが、15日までは起こりうる

〜血清病または血清病様反応(Ⅲ型過敏反応)〜

(症候)発熱、皮疹、関節炎、成人は少ない

(機序)血清病、抗体と免疫複合体の血液循環量が多い

(発症までの時間)数日〜数週間

〜細胞介在性〜

〜(primary?)単一臓器障害〜

〜急性間質性腎炎〜

(症候)皮疹、急性腎傷害、白血球円柱、高好酸球血症、好酸球尿症

(機序)CD4または単球活性化による腎糸球体-間質傷害

(発症までの時間)3日〜4週間

〜薬剤性肝障害〜

(症候)肝炎が主だが皮疹、発熱、好酸球血症もありうる

(機序)CD4陽性T細胞に続いてCD8陽性T細胞およびFasL;TNFαとパーフォリンによる肝細胞死

(発症までの時間)5日〜12週間

〜単発性皮膚病変〜

(症候)斑丘疹、麻疹様発疹、しばしば好酸球血症ともなう

(機序)好酸球性炎症、IL-4, 5, 13またはエオタキシンを介して(Ⅳb型過敏反応)

(発症までの時間)数日〜数週間

〜固定薬疹〜

(症候)暗い中心を伴う紅斑or浮腫様皮疹(多くは唇、舌、顔、性器)、灼熱感や疼痛あり

(機序)活性化した皮内CD8陽性T細胞がIFNγと細胞毒性顆粒を放出

(発症までの時間)数日〜数週間

接触性皮膚炎〜

(症候)水疱を伴う紅斑や浮腫

(機序)単球性炎症(Th1とIFNγ)

(発症までの期間)数日〜数週間

〜全身性または多臓器病変〜

〜薬剤反応性好酸球血症および全身症状症候群〜

(症候)発熱、皮疹、好酸球血症、リンパ節腫脹、臓器障害(肝や腎)

(機序)CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞による皮膚浸潤

(発症までの期間)2〜6週間

〜アバカビル過敏症候群〜

(症候)発熱、倦怠感、消化器または呼吸器症候群;皮疹は軽度〜中等度で、70%で遅発性

(機序)CD8陽性T細胞による抗原結合cleftへの非共有結合

(発症までの期間)数日〜3週間

〜Stevens-Johnson症候群、TEN〜

(症候)落屑を伴う皮疹、粘膜炎や発熱を伴う粘膜病変(口、目、性器)

(機序)CD8陽性T細胞によりパーフォリン、グラニュリシン、グランザイムBまたはFasL(ケラチノサイト死、Ⅳc型過敏反応)

(発症までの期間)4日~4週間

〜急性汎発性発疹性膿疱症〜

(症候)非濾胞性で無菌性に広く広がる急性膿疱性皮疹、発熱・顔面浮腫・好中球増多を伴う、25%で口病変を伴う

(機序)IL-8およびG-CSFを介したT細胞による(好中球性炎症、Ⅳd型過敏反応)

(発症までの時間)48時間以内

 

【疫学】

代表的カテゴリーはβラクタム系薬である。ある研究では5~10%の患者カルテにはβラクタム系アレルギーの記載があった。また5~15%の患者カルテにペニシリンアレルギーの記載があったとの報告や、1~2%でセファロスポリンアレルギーの記載があったという報告もある。薬剤アレルギーの記載頻度は女性で多かった。この性差は小児患者ではみられなかった。

担癌患者では23~35%という有病率で薬剤アレルギーの報告があった。HIV/AIDS患者でも高頻度の報告があり、非HIV/AIDS患者の10~100倍であった。

〜確認されていない抗菌薬アレルギー記載〜

ペニシリンアレルギー記載のある入院患者において皮膚テストや内服チャレンジをすると、95%がアレルギーが無く、アレルギー記載を削除された。ペニシリンアレルギー記載のある外来患者でも、98%以上がペニシリン使用可能であったという報告もある。

〜抗菌薬アレルギー記載の影響〜

ペニシリンのみへのアレルギー記載がある患者の場合、代替薬が使用される。それらはより広域で効果が弱く、有害事象が増える(例:バンコマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、フルオロキノロン)。

〜医療関連感染への影響〜

ペニシリンアレルギー記載のある患者では、無い患者と比べてC. difficile発症が23~26%多いという報告がある。

アメリカにおける8385名の周術期患者のうち、ペニシリンアレルギー記載のある患者は抗菌薬の選択やタイミングに起因する手術部位感染症オッズ比が50%増加した。ペニシリンアレルギーとセファロスポリンアレルギーとで交差反応を示す患者は2%未満、カルバペネムに対してはペニシリンもセファロスポリンも1%未満である。

〜抗菌薬耐性への影響〜

あるイギリスの報告では、2050年までに世界中で年間1000万人が耐性菌によって死亡しうると予測している。

 

【過敏反応が疑われる場合の診断と対応】

 図4 抗菌薬アレルギーの診断アプローチ

IgE介在性;脂肪細胞や好塩基球

→病歴、診察、肥満細胞トリプターゼ →迅速発症(分〜1時間、最長6時間)→皮下試験または皮内試験→薬物チャレンジ(上記試験が陰性のとき)→好塩基球活性化テストまたは血清特異的IgE

T細胞介在性

→病歴、診察、表現形スコア、薬剤原因評価、直接蛍光抗体法を用いた病理組織検査→遅延性(6時間より長い)→パッチテストまたは皮内試験→薬物チャレンジ(重症薬疹や単一臓器障害が除外された時)→リンパ球幼若化試験、薬剤特異的T細胞に対するELISpot assey、HLAタイピングその他の薬理遺伝的リスク塩基試験。

 

ペニシリンアレルギー脱標識プログラムには想定される障壁もあるものの、βラクタム系を再評価することは感染症診療と抗菌薬適正使用を改善することにつながる。他方、薬剤過敏性を明らかにすることは過敏性発見を促し、理想的で好ましく、そして喫緊の必要性があるアウトカム改善につながる。

 

【Saitsunoxの感想】

 抗菌薬アレルギーにこのような分類があり、そしてこれほど多くに分類されるとは知りませんでした。これまで「薬疹?」としてきた中には(実際にはアレルギー以外もふくめ)多様な病態を一緒くたにしてしまっていたんだろうな、と反省しました。

 最近、発熱・倦怠感・関節痛発症後に麻疹様にも見える紅丘疹を呈した症例を経験しました。白血球減少と血小板現象を伴いました。麻疹・風疹抗体価はIgM陰性、IgG陽性。IgG介在性(Ⅱ型過敏反応)または単発性皮膚病変なのかな、と推測しましたが確定することできず皮疹は消退しました。好酸球は増えていませんでした。