CMEは犀の角のように。

独学で世界標準の臨床内科学を継続的に学習する方法、をさぐります。

【総説】デング熱

 初めまして、Saitsunoxです。日本の都会ではない地方病院で、一般内科医をしています(現在卒後8年目)。

 

 私は日々の学習材料としてビッグジャーナルの総説や教育コンテンツ、そして一部の原著論文を読むことを日課としています。その独学をすること自体は軌道に乗ったころ、自分の身になっている実感が乏しいことに気づきました。そこで、アウトプットして定着を促すこととしました。自分のための備忘録が主目的な、独りよがりの記事になるかもしれません。しかしもし訪れてくださった方がいれば、この学びを共有したいとも思い本ブログを開設しました。

 

 ということでブログの1件目、デング熱に関するランセットセミナーです。

 

Lancet. 2019 Jan 26;393(10169):350-363.

Dengue.

Wilder-Smith A, Ooi EE, Horstick O, Wills B.

PMID: 30696575

 

【導入】

  デング熱は急性節足動物媒介感染症であり、多くの熱帯・亜熱帯地域に対して大きな社会的・疾病的側面での負荷を与えている。ヒトスジシマカという蚊によって媒介されることで、デング熱は熱帯・亜熱帯でみられる。そしてヒトスジシマカ生息地域には30億人以上の人口がいる。近年の感染拡大の原因として、地球温暖化によってヒトスジシマカ生息地域が拡大していることも一因であるが、それ以上に主要なもの、それは人口増加に伴う密度上昇、田舎から都市部への人口移動、都会の環境悪化、信頼できる水道水の欠如、そして蚊対策の組織性不足・予算不足。デングウイルス(DENV)はフラビウイルス属に属するRNAウイルス、4つの血清型に分類される。RNAがコードする蛋白は構造蛋白と非構造蛋白に分けられる。診断で用いられるNS1は後者に属する。

【重症デング熱の病態生理】

 ~antibody-dependent enhancement(抗体依存性感染増強;ADE)~

 一度ある血清型のDENVに感染すると、二度目に異種のDENVに感染した際に重症化する。この重症化の背景機序とされるのがADEである。交差反応性抗体または中和濃度以下の抗体は異種DENVに結合して、単球、マクロファージ、および樹状細胞などの標的細胞上に発現されるFc受容体を介したウイルス侵入を促進するとされている。これによってADEが炎症反応と抗炎症反応との不均衡を起こし、毛細血管内皮傷害、血管外漏出、そして循環血症量減少性ショックを起こす。これをデングショック症候群と呼ぶ。ADEが起こるのは、患者血液が限られた範囲内の抗体タイター値をもつ場合です。それよりタイター値が低い場合、Fc受容体がより活性化する。反対にタイター値が高い場合、抑制性Fcγ受容体、つまりFcγRIIBを共連結するために、より大きなウイルス凝集体を形成することになる。

*このあたりの説明はうまく理解できませんでした。ただし、ウイルス量と抗体量とが適度なバランスでないと、 ADEが起こらないらしいです。

 病態にウイルス構成要素が与える影響はまだ十分に分かっていないが、最近明らかになってきたものはNS1。NS1は六量体の形で感染細胞から排出され、保体やレクチン介在性の中和からウイルスを守る。加えて、NS1は内皮細胞の多糖体を破壊する可能性も示唆されており、この作用がデング関連血管外漏出に関与しているよう。NS1の毒性が解明されるにつれ、今後は抗ウイルス療法やワクチン開発の対象に研究が移ってきている。病態に関与する宿主因子として、遺伝子多型もいくつか示されている。とくにOSBPL10やRXRAという遺伝子はアフリカ系人種において重症デングを減らすことが示唆されている。伝播は、感染したメスの蚊に咬まれることで起こる。ただし、輸血や針刺しでも起こりうる。精液による感染例や母乳による感染例は報告されていない。

【臨床像】

下記の主要合併症が無ければ、単なる「デング熱」。

下記が有れば、「重症デング熱」。

⑴デングショック症候群、呼吸窮迫症候群

⑵重症出血

⑶重症臓器不全

〜リスクグループ〜

新生児、および妊婦はハイリスク。妊婦では早産、退治死亡のリスク増。

〜臨床期〜

まず、潜伏期は4〜7日が多いが、最長14日。病期は3つで発熱期、critical期、回復期。

 発熱期には、急な悪寒、高熱。3〜7日続く。全身症状あり(頭痛、倦怠感、眼後部痛、関節痛、筋肉痛、骨痛、悪心嘔吐、味覚違和感)。呼吸器症状があるとインフルエンザと区別しやすい。診察では紅斑、紅潮、眼球結膜or咽頭の充血、出血傾向、全身のリンパ節腫脹、肝腫大。ターニケットテストは陽性になりうるが特異的なものではない。

 Critical期では、血管外漏出症候群がもっとも注意。第4〜6病日で本時期に入ることが多い。しかし10%の症例では発熱期の受診時に、ショックでやってくる。漏出が重度だと脈圧低下(≦20mmHg)、呼吸窮迫起こす。漏出は48〜72時間で改善する。他には出血、肝障害、CNS障害、心障害、眼障害など。

 回復期では、1〜2週で完全に回復する。回復後、疲労感や抑うつが残る報告あり。紅斑が続いて数週間かけてゆっくり消退することもある。10日以上の発熱は細菌の重複感染を考える。または血球貪食症候群も鑑別。

 検査では、白血球減少と血小板減少は発熱期にはほぼ必発。異型リンパ球が増えることも多い。凝固異常を反映してAPTT延長、Fib濃度減少。AST・ALTは上昇。これらはALP上昇と比べて相対的に高い。低タンパク血症は漏出の重症度指標になるが、逆に血液濃縮でマスクされるかもしれない。

 重症化リスク予測の試みはあるが、現時点ではエビデンス不足。

【診断】

第5病日までは培養細胞からのウイルス分離、RT-PCR、NS1のような抗原。

第5病日以降はNS1のみ有用。しかしNS1もIgMも感度・特異度高くない。

【マネジメント(治療)】

ウイルス自体に対する薬剤は、治療・予防両面で既存薬にエビデンスの示されたものは無い。新たな抗ウイルス薬の研究がされており、NS4B阻害薬が最も有力。宿主の免疫を抑制する方法(主にステロイド)の有用性は1980年代にすでに否定されている。その後の検討でも明確な効果は示されず、コクランレビューではデングショック症候群、早期デング熱ともにエビデンス不十分の結論であった。支持療法が重要だが、デングショック症候群については早期認識と迅速な補液が不可欠。血管障害が回復する24〜72時間に十分量を補液する。中等度〜重度の血小板減少に対する予防的血小板輸血の是非には議論があり、結論は出ていない。

ベクターコントロール

2020年までに死亡率・罹患率を下げることを目的として、WHOは包括的なベクターマネジメントを推奨している。ベクターコントロールには大きく分けて三つある。1つ目の生物学的方法では、蚊を幼虫段階で制御するために細菌を使ったり、幼虫を摂食する虫やプランクトンを使う。2つ目の化学的方法では、temphosやpyriproxytenを用いる。3つ目の環境的方法では、蚊が吸血する場所を減らす。

ネッタイシマカのコントロールについて2つの新たなアプローチあり。1つ目は、Wolbachiaに感染した蚊を増やす。2つ目は、RIDLと呼ばれる方法。致死的な遺伝子をネッタイシマカに挿入する。

【ワクチン】

2015年、CYD-TDVという遺伝子組み換え、4価の弱毒生ワクチンが承認された。黄熱ワクチンを基に開発された。ワクチンの効果は様々な結果が示されている。ウイルスの血清型、ベースの患者の血清の状態、年齢が影響しているよう。DENVに対する抗体が陰性の者にワクチン接種をし、その後にデング熱に罹患すると重症デング熱になりやすいという報告がある。これを受けて、WHOはワクチン接種を検討している国に対して、接種対象者への抗体保有の有無を事前スクリーニングすることが望ましい、という推奨を出した。

【将来的な困難と展望】

point of care のNAAT(拡散増幅)検査、1つの検体で複数の抗原を検出できる検査キットが開発中。

CYD-TDV試験からの教訓が3つ。(1)ベースラインの血液サンプルが必要(現在の第3相試験では実施)、(2)免疫反応について防御と感染増強との相互関係を特定する必要がある、(3)現在の免疫原性を調べるために使用される中和抗体検査は、中和作用をもつ血清型特異的な抗体と中和作用をもたない交差反応性の抗体とを区別できないこと。

 

【Saitsunoxの感想】

 デング熱は本邦でも持ち込み例・国内発症例が報告され、総数は増えていると聞きます。一般内科医である自分も備えが必要と考えてレビューを読みました。

 本文献は疾患の概説でしたので、デング熱について“詳しく”なることはできたように思います。実際に診断が求められる場面では、渡航歴の聴取に始まり、潜伏期の推定、臨床像の検討から他疾患と区別することが求められるでしょう。その点(実臨床でどう診断し治療につなげるか)については本文献の範囲外だったようですので、他の資料で学ぶ必要がありそうです。