【総説】誤嚥性肺炎
*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。
*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。
Aspiration Pneumonia.
N Engl J Med. 2019 Feb 14;380(7):651-663.
Mandell LA et al.
【誤嚥性肺炎の細菌学的・病理学的概念の変化】
細菌を調べることに関する遺伝子を用いる手法は、肺内の細菌について分類学的協会を明らかにしてきたし、細菌叢の多様な交流が存在することを明らかにしてきた。感染とは単に細菌やその生成物が増えることの結果のみならず、宿主反応・結果としての炎症・組織傷害の結果でもある。炎症がポジティブフィードバックを惹起し、それが細菌(叢)の平衡を乱し、多様な細菌群から単一種の菌増殖へ移行させる。菌排泄機能を菌増殖が上回り、単一菌の増殖が促進された状態になると肺炎を起こす。
1970年代では、嫌気性菌は誤嚥性肺炎における最も優位な起炎菌であった。最近では市中肺炎・医療関連肺炎に関する細菌に移行(=変化)が起こっており、嫌気性菌は検出されなくなってきている。理由は明確ではないものの、可能性としては患者の生態学的性質が変化していること、そして検体採取が以前よりも早いことが挙げられる。以前の研究の頃(嫌気性菌検出率が高かった頃)は疾患のより遅いタイミングで培養がされ、膿胸や肺膿瘍になってから、ということがしばしば見られた。
【リスク因子】
顕性誤嚥が起こるのは下記病態である;嚥下障害、頭頸部や食道癌、食道の形態または機能異常、COPD、てんかん。他のリスクとしては、神経変性疾患(多発性硬化症、パーキンソニズム、認知症)、意識障害。意識障害の中ではとくに脳卒中が多く、これらでは嚥下障害もきたしていることがある。意識障害の原因としてはアルコール含む薬剤の影響にも注意。
複数の研究に基づいて、下記病態は誤嚥性肺炎のリスク因子であることが示されている。嚥下障害(オッズ比: 9.4)、脳血管障害+嚥下障害(オッズ比: 12.9)、認知症(オッズ比: 5.20)、パフォーマンスステイタス(PS)が悪い(オッズ比: 3.31)、睡眠薬使用(オッズ比: 2.08)。
【臨床的徴候】
肺炎+造影検査で確認された嚥下障害がある患者53名において、気管支肺炎のほうが大葉性肺炎よりも多かった(68% vs. 15%)。そして92%が後方(背側?)陰影であった。低PSの患者の多くはびまん性陰影であり、巣状の陰影ではなかった。
胃内容物の大量誤嚥は化学性肺臓炎を起こしうるが、それは多量かつpHが低い(<2.5)の場合に限られる。
化学性肺臓炎を特徴づける経過・徴候としては、突然の呼吸困難・低酸素血症・頻脈、びまん性wheeze・crackleである。胸部X線像は非典型的となることが多く、誤嚥の目撃も多くない(65歳以上の患者で29%)。
【診断】
誤嚥性肺炎の診断は特徴的な病歴(目撃のある多量誤嚥)、リスクファクター、妥当な胸部X線像による。
【治療】
〜誤嚥性肺炎〜
同定される起因菌が嫌気性菌から好気性菌へ移ってきているので、治療レジメン(抗菌薬選択)も変化してきている。
市中発症例のほとんどに対しては、アンピシリン/スルバクタム、カルバペネム(エルタペネム)、もしくはフルオロキノロン(レボフロキサシン、モキシフロキサシン)は効果がある。そのような患者において筆者がクリンダマイシン追加を推奨するのは以下の場合のみである:つまり嫌気性菌が主に関与しているリスクの高い症例であり、具体的には重篤な歯周病、壊死性肺炎・肺膿瘍の症例である。
低リスクの院内発症例に対しては、市中発症例と同様の対応でよい。
耐性菌の関与が懸念される院内発症例に対しては、より広いスペクトラムの抗菌薬必要である。具体的にはピペラシリン/タゾバクタム、セフェピム、レボフロキサシン、イミペネム、メロペネム。
多剤耐性菌感染の場合、アミノグリコシド系薬やコリスチンの使用が必要かもしれない。また、鼻腔や喀痰にMRSA保菌が確認されている患者の場合は、バンコマイシンやリネゾリドの追加が必要かもしれない。
肺外感染症がなければ5〜7日間の抗菌薬治療が推奨される。壊死性肺炎・肺膿瘍・膿胸がある場合はより長い治療期間が必要。抗菌薬選択には薬物有害事象のリスクを検討する必要があり、それにはC. difficileによる腸炎や薬剤耐性菌による治療不良も含まれる。
〜化学性肺臓炎〜
ステロイドのルーチン使用は推奨されない。
抗菌薬も、制酸剤内服や腸閉塞でなければ必ずしも必要ではない(左記あれば必要、ということか?)。重症であればエンピリックに抗菌薬を開始し、2〜3日後の経過で要否を判断する。
【予防】
術後化学性肺臓炎は術前8時間の絶食、および2時間の絶飲を徹底することで最小化できる。
誤嚥を促進させてしまうことが知られている薬剤、または嚥下に影響する薬剤は避けるべきである。具体的には鎮静薬、抗精神病薬であり、ハイリスク患者にとっては抗ヒスタミン薬も含まれる。
誤嚥性肺炎予防におけるNGチューブの意義は不明確である。ある研究ではNGチューブのない患者と比べて、NGチューブのある患者では誤嚥は増えなかった、とされた。
ACE阻害薬は、とくにアジア人においては、サブスタンスP上昇効果により咳嗽と嚥下反射が増え、誤嚥予防になる可能性が示されている。シロスタゾールについても、脳卒中後の肺炎予防に関して同様の効果が示されている。
【まとめと感想】
2019年、最新版のレビュー。ではあるが、それほど真新しい記載は見当たらなかった。ただし、起因菌に嫌気性菌が検出される割合が以前と比べて減っている、という点は興味深かった。
私が学んできたほどには、嫌気性菌カバーは不要になってきているのかもしれません。