CMEは犀の角のように。

独学で世界標準の臨床内科学を継続的に学習する方法、をさぐります。

【原著】非ICU病棟の入院患者において、毎日クロルヘキシジン浴+MRSA保有者へのムピロシン塗布をすると、ルーティンケアと比べて、多剤耐性菌の培養陽性率は変わらなかった。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

クロルヘキシジン浴による薬剤耐性菌保有率(感染症発生率?)減少の試みは、最近よく目にするような気がします。トピックスでしょうか。正直に言うと「これがスタンダード化されると現場はコストが増えてたまったもんじゃないでしょう」というネガティブな感情を抱きつつ、その結果に注目して学びました。

 

Chlorhexidine versus routine bathing to prevent multidrug-resistant organisms and all-cause bloodstream infections in general medical and surgical units (ABATE Infection trial): a cluster-randomised trial.

Lancet. 2019 Mar 23;393(10177):1205-1215.

Huang SS et al.

PMID: 30850112

 

【背景】

画一的皮膚・鼻腔除菌は、ICUにおける多剤耐性菌と血流感染症を減らす。ICUではない病棟における画一的除菌の病原体や感染に対する効果は明らかでない。ABATE Infection trialの目的は非ICU病棟におけるクロルヘキシジン浴を評価することが目的であり、同様の介入はICUにおいては多剤耐性病原体や菌血症を減らすことが示されている。

 

【方法】

ABATE Infection; active bathing to eliminate infection試験は、非ICU病棟においてルーチンの入浴と一律にクロルヘキシジン浴+ムピロシン塗布とを比較した53施設、クラスター化ランダム化比較試験である。本試験はHCA; Hospital Corporation of America Healthcareにより運営される病院で実施され、2013年3月1日〜2014年2月28日までの12ヶ月をベースライン期間とし、2014年4月1日〜2014年5月31日までの2ヶ月を組込み機関とし、2014年6月1日〜2016年2月29日までの21ヶ月を介入期間とした。病院はランダム化され、非ICU病棟の参加者はルーチンケア群とクロルヘキシジン群とに振り分けられた。除菌群のMRSA保菌者は全例ムピロシン塗布も追加された。主要評価項目はMRSAまたはバンコマイシン耐性腸球菌の、ベースライン期間と介入期間とで比べた検出ハザード比で、非調整・ITT解析された。比例ハザードモデルを用いた解析を行った。

 

【結果】

 53病院の194つの非ICU病棟から、ベースライン期間で18 9081名の患者、および介入期間で33 9902名の患者(15 6889名がルーティンケア群、18 3013名が除菌群)が集まった。病棟起因MRSA陽性またはVRE陽性を主要評価項目として、介入期間/ベースライン期間のハザード比は除菌群で0.79 (0.73-0.87)、ルーティンケア群で0.87 (95% CI 0.79-0.95)であった。相対的ハザード比に有意差は見られなかった。18 3013件中25件(<1%)の有害事象があり、全てクロルヘキシジン使用に関連したものであった。ムピロシンに関連したものは報告されなかった。

 

【解釈】

一律のクロルヘキシジン浴とMRSA保菌者を対象としたムピロシン除菌は、非ICU病棟入院患者における多剤耐性菌を有意には減らさなかった。

 

【まとめと感想】

本研究を受けて「一般病棟でも耐性菌を減らすため日常的にクロルヘキシジン浴をしよう!」とはならないで済みそうです。ただし本論文の限界として述べられているように、ICU患者ほどデバイスや耐性菌保有率が低いことから有意差がつかないだけで本質的には有効なのかもしれません。この「患者数が巨大になれば有意差が検出できる」を臨床でどの程度までなら導入すべきなのか、悩ましい問題と思います。