CMEは犀の角のように。

独学で世界標準の臨床内科学を継続的に学習する方法、をさぐります。

【総説】結核

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

結核は長きにわたって医療上の重要な課題であり続けています。Satsunoxが医療をしている日本のある地域、ある医療機関では「忘れた頃にやってくる」疾患という印象ですが、やはり重要な病原体であり、興味深いとも思います。

そんな結核についての総説がありましたので、学びました。

 

Tuberculosis.

Lancet. 2019 Apr 20;393(10181):1642-1656.

PMID: 30904262 

 

【導入】

世界の結核情勢は悲惨な状態にある。しかしながら、現在は大きな兆候と発見のときでもある。

【疫学、病理、リスク因子】

WHOによると、2017年で推定1000万人が結核に新規罹患している。このうち870万人(87%)が30の高蔓延国に住んでいる。

結核は貧困の病である。ほとんどの高収入国では推定発症率は年間10万人あたり10人未満であるのに対し、30の高蔓延国(ほとんどが低〜中収入国)では推定発症率は年間10万人あたり183人である。

現在、いくつかの“キー”国ではリファンピシン耐性結核の有病率は上昇している。それらの国にはロシア、ミャンマー、中国、南アフリカが含まれる。

【診断】

結核診断においていくつかの進歩があったものの、信頼できる・単純な・即座に結果の得られて確定診断できる検査は存在しない。

LAM; lipoarabinomannanという物質は結核が宿主(ヒト)内で産生し散布する多数のタンパク質のうちの一つである。尿中LAMの検査が結核の死亡減少と関連があった、とする報告がある。尿中LAM検査が現在推奨されている対象はHIV感染者、CD4陽性細胞数が100/mcl未満の患者、重篤な病態にある患者、そして入院患者である。より高感度のLAM検査が発達してきており、HIV非感染者で小児患者や外来患者もふくめた結核の迅速診断への期待感が示されている。

【治療】

結核治療の見通しは過去5年で大きく変わった。その理由は二つの新たな薬剤の登場;bedaquilineとdelamanidである。これらを用いた多数の臨床試験が、あらゆる形態の結核治療を変えている。現時点では、感受性良好の結核に対しては従来の4剤治療レジメン(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)である。bedaquilineはジアリルキノロン系抗菌薬に分類され、抗酸菌ATP合成を阻害する。delamanidはニトロイミダゾール系抗菌薬に分類され、ミコール酸合成を阻害する。過去5年で進歩した同じニトロイミダゾール系抗菌薬にはpretomanidがある。あるシングルアームの研究では、超多剤耐性結核菌をもつ患者に6ヶ月〜9ヶ月の高用量リネゾリド(1200 mg/day)、bedaquiline、pretomanidを投与、89%が治癒し12ヶ月フォローでも寛解を保っていた。

他の新規薬にはbenzothiazone系薬、DprE1阻害薬、抗酸菌呼吸鎖阻害薬(ex; telacebec)、そしてimidazopyridine系薬があげられる。

repurposed drugへの関心も高まっている。代表はリネゾリドである。その他としてはclofazimine。 kanamycin, capreomycin, pyrazinamide, ethionamide, para-aminosalicylic acidが臨床試験で用いられることがあるが、これらは治療アウトカムで劣ることが確認されている。

 

【まとめと感想】

現時点では日常臨床における診断・治療内容が大きく変わっているとは言いがたいようです。耐性結核の有病率が上がっているという困難がある一方で、診断・治療も研究は進んでいるようです。少なくとも診断に関して、迅速診断で薬剤感受性まで分かるようになっているということは驚きでした。

【原著】アメリカ急性期病院における抗菌薬使用と院内発症C. difficile感染症の関連。2006-2012年の生態学的解析。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

C. difficile感染症の薬剤耐性はアメリカにおいて最も喫緊の課題とされているようです。日本では(Saitsunox周囲では)今のところ耐性C.difficileが問題となってきている実感はありませんが、AMR(抗菌薬耐性)への取り組みの一環として重要であることは間違いありません。

どのような抗菌薬使用がC. difficile感染症と関連があるか、学びました。

 

Association between Antibiotic Use and Hospital-Onset Clostridioidesdifficile Infection in U.S. Acute Care Hospitals, 2006-2012: an Ecologic Analysis.

Clin Infect Dis. 2019 Mar 1.

Kazakova SV et al.

PMID: 30820545

 

【背景】

不適切な抗菌薬使用(AU)はC. difficile感染症(CDI)の発生率を上げることに貢献する。院内発症CDI (HO-CDI)に対する抗菌薬使用制限の与える影響は、アメリカ急性期病院(連盟?)(ACHs)においてはこれまで評価されていない。

【方法】

病院レベルでのAUと549 ACHsから得られたHO-CDIとの横断的・同時的関連について調べた。二次CDIのICD-9-CM対応病名がついて退院したHO-CDI、そしてメトロニダゾールまたは経口バンコマイシンで入院してから3日以上治療された患者を対象とした。多変量一般化推定方程式を用い、患者および病院の特徴で調整をして解析した。

【結果】

2006-2012年の間で、年間の非調整HO-CDIおよびAU発生率はそれぞれ、7.3/10,000患者日(PD) (95% CI: 7.1-7.5) と811 DOT/10,000患者日 (95% CI: 803-820)であった。横断的解析において、全AU内で50 DOT/1,000 PD増えるごとに4.4%のHO-CDI増加が認められた。第3,4世代セフェムまたはカルバペネム系抗菌薬の使用が10 DOT/1,000 PD増えるごとに、それぞれ2.1%, 2.9%のHO-CDI増加が認められた。分割時系列解析において、全AUのうち30%以上減少がみられた6施設では、HO-CDIが33%減少した(rate ratio, 0.67; 95% CI, 0.47-0.96)。キノロン系薬、および第3/4世代セフェム系薬使用が20%以上減少した施設では、HO-CDIがそれぞれ8%、および13%減少した。

【結論】

生態学的観点から、全AU減少の中で、キノロン系薬と第3/4世代セフェム系薬の使用減少がHO-CDI発生率減少に関連した。

 

【その他】

2006-2012年の間でフルオロキノロン系抗菌薬使用量は大きく減ったが、同期間のCDI発生数はあまり変わりなかった。考えられる原因として、フルオロキノロン系抗菌薬使用が減少した反面で第3・4世代セフェム系抗菌薬使用量が増加し、全体として相殺されてしまった可能性が挙げられている。研究者の中にはフルオロキノロン系抗菌薬とセファロスポリン系抗菌薬の代替としてペニシリン系抗菌薬を使用することを推奨する者もいる。たとえ抗菌薬使用総量が変わらなくとも、CDI減少に効果があるかもしれないと主張する。

 

 【まとめと感想】

フルオロキノロンや第3・4世代セフェムがCDIを起こしやすいのでしょうか。またはフルオロキノロンや第3・4世代セフェムの使用の中に“無駄”な使い方のものが多いのでしょうか。本結果の解釈は難しい印象です。

ただし、CDIとの関連を脇へ置いたとしても、抗菌薬の使用には妥当性や合理性をもってあたりたいと思います。

【原著】免疫チェックポイント阻害剤使用中のがん患者に対してインフルエンザワクチン使用し、“新規”免疫関連有害事象(IRAE)は増えなかった。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

がん治療シーンにおいて免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の使用が広がっていると聞きます。ICIは免疫を賦活する治療(ものすごく大雑把な理解ですが)であり、IRAEに注意が必要です。免疫作用を介してインフルエンザ予防を目指すワクチンは、このような薬剤を使用中の患者に問題なく使えるのでしょうか。新たな機序の治療が登場するたび、既存の検査や治療との関連を確認する必要が出てきます。今回はICI使用中のインフルエンザワクチン接種について調べました。

 

Chong CR et al.

Clin Infect Dis. 2019 Mar 15.

Safety of Inactivated Influenza Vaccine in Cancer Patients Receiving Immune Checkpoint Inhibitors (ICI). 

PMID:30874791

 

【背景】

がん患者はインフルエンザに関連した合併症のリスクが高い。インフルエンザワクチン がICI視聴中患者の免疫イベントを増強するか否かについては不明確である。

【方法】

連続した3期間(2014-2015, 2015-2016, 2016-2017年)、インフルエンザワクチン接種を受けたICI使用中進行がん患者の後方視的検討をおこなった。主要評価項目は何らかの“新規”IRAE”とした。副次解析として、PD-1阻害剤(nivolumab or pembrolizumab)で新たに治療を受けたワクチン被接種患者について、すでに報告されている試験と比べてIRAEが多いかどうかを検討した。

【結果】

 三つの期間で、370名の患者がICI+2ヶ月以内のワクチンという基準を満たした。背景がんはもっとも多かったのが肺がん(46%)、次が悪性黒色腫(19%)であり、61%の患者はPD-1阻害薬のみを投与された。コホート全体で、20%がIRAE(グレード問わず)を経験した。グレード3または4の毒性は8%だった。グレード5のイベントは起こらなかった。新たにPD-1阻害薬で治療を受けたサブ解析群170名において、全IRAE率は18%、グレード3または4の毒性は7.6%だった。インフルエンザと診断された患者が2人いた。

【結論】

ICI+2ヶ月以内の不活化インフルエンザワクチンの患者においてIRAEの発生率や重症度増加は認められなかった。新たにPD-1阻害薬で治療を受けた患者において、IRAE率は既報の研究と同等であり、投与順序によっても変わりはなかった。ルーチンの季節性インフルエンザワクチン接種は、ICI使用患者にも推奨される。

 

【まとめと感想】

今後患者さんによってはご本人からも相談がありうる内容と思いますが、見解を示す一つの資料として参考になりました。ワクチン接種を避けるべき状況ではなさそうです。

【総説】誤嚥性肺炎

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

  

Aspiration Pneumonia.

N Engl J Med. 2019 Feb 14;380(7):651-663.

Mandell LA et al.

PMID: 30763196 

 

誤嚥性肺炎の細菌学的・病理学的概念の変化】

 細菌を調べることに関する遺伝子を用いる手法は、肺内の細菌について分類学的協会を明らかにしてきたし、細菌叢の多様な交流が存在することを明らかにしてきた。感染とは単に細菌やその生成物が増えることの結果のみならず、宿主反応・結果としての炎症・組織傷害の結果でもある。炎症がポジティブフィードバックを惹起し、それが細菌(叢)の平衡を乱し、多様な細菌群から単一種の菌増殖へ移行させる。菌排泄機能を菌増殖が上回り、単一菌の増殖が促進された状態になると肺炎を起こす。

 1970年代では、嫌気性菌は誤嚥性肺炎における最も優位な起炎菌であった。最近では市中肺炎・医療関連肺炎に関する細菌に移行(=変化)が起こっており、嫌気性菌は検出されなくなってきている。理由は明確ではないものの、可能性としては患者の生態学的性質が変化していること、そして検体採取が以前よりも早いことが挙げられる。以前の研究の頃(嫌気性菌検出率が高かった頃)は疾患のより遅いタイミングで培養がされ、膿胸や肺膿瘍になってから、ということがしばしば見られた。

【リスク因子】

顕性誤嚥が起こるのは下記病態である;嚥下障害、頭頸部や食道癌、食道の形態または機能異常、COPDてんかん。他のリスクとしては、神経変性疾患多発性硬化症、パーキンソニズム、認知症)、意識障害意識障害の中ではとくに脳卒中が多く、これらでは嚥下障害もきたしていることがある。意識障害の原因としてはアルコール含む薬剤の影響にも注意。

複数の研究に基づいて、下記病態は誤嚥性肺炎のリスク因子であることが示されている。嚥下障害(オッズ比: 9.4)、脳血管障害+嚥下障害(オッズ比: 12.9)、認知症(オッズ比: 5.20)、パフォーマンスステイタス(PS)が悪い(オッズ比: 3.31)、睡眠薬使用(オッズ比: 2.08)。 

【臨床的徴候】

肺炎+造影検査で確認された嚥下障害がある患者53名において、気管支肺炎のほうが大葉性肺炎よりも多かった(68% vs. 15%)。そして92%が後方(背側?)陰影であった。低PSの患者の多くはびまん性陰影であり、巣状の陰影ではなかった。 

胃内容物の大量誤嚥は化学性肺臓炎を起こしうるが、それは多量かつpHが低い(<2.5)の場合に限られる。

化学性肺臓炎を特徴づける経過・徴候としては、突然の呼吸困難・低酸素血症・頻脈、びまん性wheeze・crackleである。胸部X線像は非典型的となることが多く、誤嚥の目撃も多くない(65歳以上の患者で29%)。

【診断】

誤嚥性肺炎の診断は特徴的な病歴(目撃のある多量誤嚥)、リスクファクター、妥当な胸部X線像による。

【治療】

誤嚥性肺炎〜

同定される起因菌が嫌気性菌から好気性菌へ移ってきているので、治療レジメン(抗菌薬選択)も変化してきている。

市中発症例のほとんどに対しては、アンピシリン/スルバクタム、カルバペネム(エルタペネム)、もしくはフルオロキノロン(レボフロキサシン、モキシフロキサシン)は効果がある。そのような患者において筆者がクリンダマイシン追加を推奨するのは以下の場合のみである:つまり嫌気性菌が主に関与しているリスクの高い症例であり、具体的には重篤歯周病、壊死性肺炎・肺膿瘍の症例である。

低リスクの院内発症例に対しては、市中発症例と同様の対応でよい。

耐性菌の関与が懸念される院内発症例に対しては、より広いスペクトラムの抗菌薬必要である。具体的にはピペラシリン/タゾバクタム、セフェピム、レボフロキサシン、イミペネム、メロペネム

多剤耐性菌感染の場合、アミノグリコシド系薬やコリスチンの使用が必要かもしれない。また、鼻腔や喀痰にMRSA保菌が確認されている患者の場合は、バンコマイシンやリネゾリドの追加が必要かもしれない。

肺外感染症がなければ5〜7日間の抗菌薬治療が推奨される。壊死性肺炎・肺膿瘍・膿胸がある場合はより長い治療期間が必要。抗菌薬選択には薬物有害事象のリスクを検討する必要があり、それにはC. difficileによる腸炎や薬剤耐性菌による治療不良も含まれる。

〜化学性肺臓炎〜

ステロイドのルーチン使用は推奨されない。

抗菌薬も、制酸剤内服や腸閉塞でなければ必ずしも必要ではない(左記あれば必要、ということか?)。重症であればエンピリックに抗菌薬を開始し、2〜3日後の経過で要否を判断する。

 

【予防】

術後化学性肺臓炎は術前8時間の絶食、および2時間の絶飲を徹底することで最小化できる。

誤嚥を促進させてしまうことが知られている薬剤、または嚥下に影響する薬剤は避けるべきである。具体的には鎮静薬、抗精神病薬であり、ハイリスク患者にとっては抗ヒスタミン薬も含まれる。

誤嚥性肺炎予防におけるNGチューブの意義は不明確である。ある研究ではNGチューブのない患者と比べて、NGチューブのある患者では誤嚥は増えなかった、とされた。

ACE阻害薬は、とくにアジア人においては、サブスタンスP上昇効果により咳嗽と嚥下反射が増え、誤嚥予防になる可能性が示されている。シロスタゾールについても、脳卒中後の肺炎予防に関して同様の効果が示されている。

 

【まとめと感想】

2019年、最新版のレビュー。ではあるが、それほど真新しい記載は見当たらなかった。ただし、起因菌に嫌気性菌が検出される割合が以前と比べて減っている、という点は興味深かった。

私が学んできたほどには、嫌気性菌カバーは不要になってきているのかもしれません。

【原著】非ICU病棟の入院患者において、毎日クロルヘキシジン浴+MRSA保有者へのムピロシン塗布をすると、ルーティンケアと比べて、多剤耐性菌の培養陽性率は変わらなかった。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

クロルヘキシジン浴による薬剤耐性菌保有率(感染症発生率?)減少の試みは、最近よく目にするような気がします。トピックスでしょうか。正直に言うと「これがスタンダード化されると現場はコストが増えてたまったもんじゃないでしょう」というネガティブな感情を抱きつつ、その結果に注目して学びました。

 

Chlorhexidine versus routine bathing to prevent multidrug-resistant organisms and all-cause bloodstream infections in general medical and surgical units (ABATE Infection trial): a cluster-randomised trial.

Lancet. 2019 Mar 23;393(10177):1205-1215.

Huang SS et al.

PMID: 30850112

 

【背景】

画一的皮膚・鼻腔除菌は、ICUにおける多剤耐性菌と血流感染症を減らす。ICUではない病棟における画一的除菌の病原体や感染に対する効果は明らかでない。ABATE Infection trialの目的は非ICU病棟におけるクロルヘキシジン浴を評価することが目的であり、同様の介入はICUにおいては多剤耐性病原体や菌血症を減らすことが示されている。

 

【方法】

ABATE Infection; active bathing to eliminate infection試験は、非ICU病棟においてルーチンの入浴と一律にクロルヘキシジン浴+ムピロシン塗布とを比較した53施設、クラスター化ランダム化比較試験である。本試験はHCA; Hospital Corporation of America Healthcareにより運営される病院で実施され、2013年3月1日〜2014年2月28日までの12ヶ月をベースライン期間とし、2014年4月1日〜2014年5月31日までの2ヶ月を組込み機関とし、2014年6月1日〜2016年2月29日までの21ヶ月を介入期間とした。病院はランダム化され、非ICU病棟の参加者はルーチンケア群とクロルヘキシジン群とに振り分けられた。除菌群のMRSA保菌者は全例ムピロシン塗布も追加された。主要評価項目はMRSAまたはバンコマイシン耐性腸球菌の、ベースライン期間と介入期間とで比べた検出ハザード比で、非調整・ITT解析された。比例ハザードモデルを用いた解析を行った。

 

【結果】

 53病院の194つの非ICU病棟から、ベースライン期間で18 9081名の患者、および介入期間で33 9902名の患者(15 6889名がルーティンケア群、18 3013名が除菌群)が集まった。病棟起因MRSA陽性またはVRE陽性を主要評価項目として、介入期間/ベースライン期間のハザード比は除菌群で0.79 (0.73-0.87)、ルーティンケア群で0.87 (95% CI 0.79-0.95)であった。相対的ハザード比に有意差は見られなかった。18 3013件中25件(<1%)の有害事象があり、全てクロルヘキシジン使用に関連したものであった。ムピロシンに関連したものは報告されなかった。

 

【解釈】

一律のクロルヘキシジン浴とMRSA保菌者を対象としたムピロシン除菌は、非ICU病棟入院患者における多剤耐性菌を有意には減らさなかった。

 

【まとめと感想】

本研究を受けて「一般病棟でも耐性菌を減らすため日常的にクロルヘキシジン浴をしよう!」とはならないで済みそうです。ただし本論文の限界として述べられているように、ICU患者ほどデバイスや耐性菌保有率が低いことから有意差がつかないだけで本質的には有効なのかもしれません。この「患者数が巨大になれば有意差が検出できる」を臨床でどの程度までなら導入すべきなのか、悩ましい問題と思います。

 

【原著】多剤耐性グラム陰性桿菌を起因菌に含む複雑性腹腔内感染症に対するセフトロザン/タゾバムタム+メトロニダゾールでの治療は、メロペネムでの治療と比べて、治癒率に関して非劣性を示した。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

最も高頻度と思われるESBL産生グラム陰性桿菌をはじめ、多剤耐性菌への対策は今後の感染症治療の課題の一つです。カルバペネム系抗菌薬は既存の抗菌薬の中で非常に広域スペクトラムを持ち、かつ、いくつかの耐性菌への活性を持ちます。だからこそ、可能な状況では温存したい対象です。カルバペネム系抗菌薬温存を考える際の一つの選択肢である抗菌薬についての論文に出会いましたので、学びました。

 

Ceftolozane/Tazobactam Plus Metronidazole for Complicated Intra-abdominal Infections in an Era of Multidrug Resistance: Results From a Randomized, Double-Blind, Phase 3 Trial (ASPECT-cIAI).

Clin Infect Dis. 2015 May 15;60(10):1462-71.

PMID: 25670823

 

【背景】

複雑性腹腔内感染症(cIAIs)を引き起こす病原体において抗菌薬耐性が増加することは、新たな抗菌薬開発を促す(因子である)。セフトロザン/タゾバクタムは新たな抗菌薬であり、多剤耐性緑膿菌やほとんどのESBL産生腸内細菌科に対して活性を有する。

【方法】

ASPECT-cIAIは前向き、二重盲検化RCTである。cIAIを呈する入院患者にセフトロザン/タゾバクタム1.5g +メトロニダゾール500mgを8時間ごと、またはメロペネム1gを8時間ごとで4〜14日間、点滴で投与した。目的は治癒評価目的の受診時(治療開始から24〜32日)における臨床的治癒率(主要評価項目)の非劣性性を証明すること、および微生物学的評価(副次評価項目)の非劣性性を証明することである。非劣性マージンは10%とした。微生物学的アウトカムと安全性についても評価した。

【結果】

セフトロザン/タゾバクタム+メトロニダゾールは、主要評価項目についても副次評価項目についてもメロペネムに非劣性を示した。主要評価項目(83.0% [323/389] vs 87.3% [364/417]; 加重差, -4.2%; 95%信頼区間, -8.91 to 0.54)、副次評価項目(94.2% [259/275] vs 94.7% [304/321]; 加重差, -1.0%; 95%信頼区間, -4.52 to 2.59)であり、事前に設定した非劣性マージンに合致した。ESBL産生腸内細菌科が検出された患者では、臨床的治癒率はセフトロザン/タゾバクタム+メトロニダゾール群で95.8% (23/24)、メロペネム群で88.5%(23/26) であった。そしてCTX-M-14/15 ESBL産生菌によるものについては前者が100%(13/13) 、後者が72.7%(8/11)であった。有害事象発生率は両群において同程度であった(44.0% vs 42.7%)。もっとも多かった有害事象は悪心と下痢であった。

【結論】

セフトロザン/タゾバクタム+メトロニダゾールによる治療は、成人の多剤耐性菌によるものを含む複雑性腹腔内感染症において、メロペネムに比べて非劣性を示した。

 

【まとめと感想】

ESBL産生菌に使用可能なセフェム系抗菌薬の選択肢になりうるかもしれません。カルバペネム系抗菌薬温存の観点から重要なポジションの薬剤になる可能性があります。

【総説】肝膿瘍治療においてカテーテルドレナージは、経皮穿刺吸引と比べ、治癒率と膿瘍腔縮小が高い。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています

 

日本においては、肝膿瘍はときどき出会う感染症です。 おそらく細菌性であることの方がかなり多いのではないでしょうか。私の乏しい経験の中では治療手技は穿刺吸引しか見たことがありません。カテーテルドレナージとの違いについて見聞きもしたことがありませんでしたので、学びました。

 

Percutaneous needle aspiration versus catheter drainage in the management of liver abscess a systematic review and meta-analysis.

HPB (Oxford). 2015 Mar;17(3):195-201.

PMID:25209740

 

【目的】

本研究の目的は、肝膿瘍における経皮穿刺吸引(PNA; percutaneous needle aspiration)と経皮カテーテルドレナージ(PCD; percutaneous catheter drainage)との効果を比べることである。

【方法】

電子検索(Cochrane Library, MEDLINE, EMBASE, SCIE)を行い、PNAとPCDとを比較したRCTを同定した。メタアナリシスを行った。

【結果】

計5編、306名の患者を含むRCTが組み込まれた。メタアナリシスで示されたことには、PCD群はPNA群と比べて成功率(RR: 0.81, 95% CI 0.66-0.99; P = 0.04)、臨床的改善(SMD: -0.73, 95% CI 0.36-1.11; P = 0.0001)、膿瘍腔サイズ半減までの日数(SMD: -1.08, 95% CI 0.64-1.53; P < 0.00001)において優れていた。有意差が見られなかったのは入院期間(mean difference: -0.17, 95% CI -2.10 to 1.75; P = 0.86)と手技関連合併症(RR: 0.50, 95% CI 0.10-2.63; P = 0.41)であった。メタアナリシス中のRCTにおけるデータ不足のため、膿瘍腔の完全な治癒・またはほぼ完全な治癒、および死亡率は計算されなかった。

【結論】

PNAとPCDは両者共に肝膿瘍吸引の安全な方法である。しかしながら、PCDはPNAと比べてより効果的である。その理由はより高い成功率、改善までの期間が短い、そして膿瘍腔サイズ半減を支持するからである。しかしながら、成功した患者たちの中で、PNAのアウトカムはPCDのそれと比肩しうるものであった。

 

【まとめと感想】

基本的にPCDの方が成績が良い、という結論のようでした。であればドレーン留置などPCD特有の点に問題のない症例であればPCDの方が推奨される、という解釈でよいでしょうか。自分たちで処置を行うのであれば「じゃあ問題ない場合は基本的にPCDで!」で済むかもしれませんが、私の場合はお願いする側になるでしょう。処置をお願いする際には、お願いの仕方にも表現に配慮(工夫?)が必要かもしれません。