CMEは犀の角のように。

独学で世界標準の臨床内科学を継続的に学習する方法、をさぐります。

【原著】研修医に対して業務拘束時間を柔軟に調整することは、標準的拘束時間で勤務するのと比べ、患者の30日死亡や他のアウトカムへ悪影響しない。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています

 

 研修医の過労は少し前(何年か前=かなり前?)に日本でも話題となりました。そしてこの4月から、いわゆる働き方改革法が施行されました。研修医に限らず、医療界に限らず、働き方を法のもとで見直す必要に迫られているのでしょう。

 今回は法的観点ではなく、医療安全(つまり医療の質)的観点から研修医業務時間について検討した文献に出会いました。

 

Patient Safety Outcomes under Flexible and Standard Resident Duty-Hour Rules.

N Engl J Med. 2019 Mar 7;380(10):905-914.

PMID: 30855740

 

【背景】

研修医プログラムにおける過剰な長さの勤務が患者安全に悪影響を与える可能性について、懸念が続いている。

【方法】

2015-2016年度の間、63個の内科研修プログラムにおいてクラスターランダム化比較、非劣性試験をおこなった。プログラムは下記2群に分けられた。標準業務群;米国大学院医学教育認定評議会(Accreditation Council for Graduate Medical Education; ACGME)が2011年7月に適用した内容で働く群(標準プログラム群)、とフレキシブル群;より柔軟に勤務時間を設定し勤務の長さ上限や勤務間の時間に縛りなく働く群、とに分けた。主要評価項目は前3年と後3年とで比較した非調整30日死亡率とした。設定仮説として、フレキシブル群は標準プログラム群と比べて劣らない(非劣性マージン1%)、とした。副次評価項目は他の5つの安全基準、および全指標に関するリスク調整アウトカムとした。

【結果】

30日死亡率(主要評価項目)は、フレキシブル群(前3年で12.5%、後3年で12.6%)について、標準プログラム群(前3年で12.2%、後3年で12.7%)と比べて非劣性であった。非劣性性は統計学的に有意(p=0.03)であり、1%の非劣性マージンに対して95%信頼区間の下限は0.93%であった。7日時点での非調整再入院割合、患者安全指標、そしてMedicare支払いの違いは両群間で1%未満であった。30日以内の再入院率、在院日数の長さについて非劣性基準は満たさなかった。リスク調整指標は全体に同様の結果であった。

【結論】

研修医の勤務時間を柔軟に調整できるようプログラム管理者に権限を委ねることは、患者の30日死亡やその他の患者安全指標について悪影響は与えなかった。

 

【まとめと感想】

研修医が患者アウトカムに直接的に影響しうる業務内容を担当している、というのが本研究の前提として必要と思います。つまり、もし「研修医は指導医の後をついているだけ」的な研修プログラム下で同様の結果が出たとしても、それを受けて研修医勤務時間短縮が妥当であるとは言い難いと思います。

【原著】市中獲得型フルオロキノロン耐性大腸菌と近隣地域の抗菌薬使用量には関連がある:住民対象の症例対照研究

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています

 

以前勤務していた地域ではキノロン耐性大腸菌が多いと感じていました。そしてその地域では、ある医師がキノロンを多用していた時期がある、という噂を聞いたことがありました。実感を持っていたテーマに関連した研究をみつけましたので、勉強しました。

 

【背景】

個人に対する抗菌薬使用量増加はその人(の保有する細菌)の抗菌薬耐性獲得リスクを増やすことは示されているものの、地域での抗菌薬使用量増加がその地域住民個人(の保有する細菌)の抗菌薬耐性獲得リスクを増やすかどうかは、知られていない。

【方法】

階層的多変量ロジスティック回帰アプローチを用い、地域でのフルオロキノロン使用量と住民個人のキノロン耐性大腸菌の保菌・感染リスクとの関連を評価した。住民対象の症例対照研究を行い、対象はイスラエル内のあらかじめ定義された地理的範囲内に住む22歳以上の成人、1733名とした。多層試験デザインを用いて、Clalit州健康サービスで組み込まれた患者の電子カルテ記録に基づくデータを解析した。

【結果】

 30 0105件の大腸菌発育、189 9168件の培養陰性が解析された電子カルテから特定された。27 0190名中4 5427名の女性(16.8%)と2 9915名中8835名の男性(29.5%)がフルオロキノロン耐性の大腸菌を有した。我々が見つけた独立因子としては、抗菌薬使用量の多い地域に住むこととフルオロキノロン耐性大腸菌による細菌尿が、あった。抗菌薬使用量を5分位数に分けた場合の最少使用群と比べた他群のオッズ比は女性ではそれぞれ1.15(95% CI 1.06-1.24), 1.31(1.20-1.43), 1.41(1.29-1.54), 1.51(1.38-1.65)であった。男性ではそれぞれ1.17(1.02-1.35), 1.24(1.06-1.45), 1.35(1.15-1.59), 1.50(1.26-1.77)であった。結果はフルオロキノロンを使用されていない個人に限定した場合も有意差を保った。

【結論】

これらのデータから示されたのは、特定の地理的地域における抗菌薬使用量が増えることが薬剤耐性菌を個人が獲得するリスクと関連する、ということである。そしてそれは個人の抗菌薬使用や既知の薬剤耐性リスクとは独立していた。

 

【まとめと感想】

本研究は観察研究ですから、他に交絡因子を含む可能性は排除しきれません。実際には周辺地域でおこなわれている抗菌薬投与以外に直接耐性菌拡大に関与する要素があるのかもしれません。

しかしながら、「耐性菌は住民レベルで伝播していっているのだ」という説得は、それなりにうなずける気がします。

【原著】敗血症性DICにおいて、リコンビナントトロンボモジュリンを用いた群は、用いない群と比べ、生存期間が長かった。

これまで自分の中で裏を取らずに“使わない派”になっていたトロンボモジュリンです。科学的根拠に基づいて判断をする医師になりたいと常々思っているわりにちゃんと調べていないトロンボモジュリンについて勉強しました。

 

Recombinant human soluble thrombomodulin and mortality in sepsis-induced disseminated intravascular coagulation. A multicentre retrospective study.

Thromb Haemost. 2016 Jun 2;115(6):1157-66.

PMID: 26939575

 

【抄録】

リコンビナントトロンボモジュリン(rhTM)はDIC治療の新たなクラスの抗凝固薬である。rhTMは日本中の臨床で広く使用されているが、敗血症性DIC患者に対して使用することを支持する臨床エビデンスは限られている。さらに、rhTMは他の国においてはDIC治療への適応は承認されていない。本研究の目的は、致死的患者においてrhTM使用が生存利益をもたらすかどうか明らかにすることである。

対象は2011年1月〜2013年12月、42箇所のICUで重症敗血症または敗血症性ショック治療を受けた3195名の患者である。患者は後方視的に解析され、1784名は日本の急性期DIC基準アルゴリズムに基づいてDICと診断された(rhTM群は645名、コントロール群は1139名)。

傾向スコアマッチングで452対のペアが作られ、マッチした群においてロジスティック回帰分析でrhTM投与と低い病院内全死亡とに有意な関連が示された(オッズ比, 0.757; 95% CI, 0.574-0.999, p = 0.049)。逆確率重みつき推定法(IPW)と五分割層別解析でも同様に有意差を示した。生存期間は、傾向スコアマッチングrhTM群において、コントロール群と比し有意に長かった(ハザード比, 0.781; 95% CI, 0.624-0.977, p = 0.03)。出血性合併症はrhTM群で頻度が少なかった。

結論として、本研究では、rhTM投与は敗血症性DIC患者の病院内死亡および全死亡と関連があることが示された。

 

【まとめと感想】

敗血症性DICに、DIC自体に対する薬物投与をするかどうかは議論が分かれるところらしいですね。使う“派”、使わない“派”に分かれコンセンサスはまだ得られていないと聞きます。本研究は後方視的観察研究ですが、重症敗血症性DICであれば使う意味があるように感じました。これまで慢性期病院に勤めることが多かったこと(?)が自分の中で使用ハードルをさらに上げていた面もあったのですが、対象を吟味して使ってみても良いのかな、と考えるようになりました。

【原著】多剤耐性株を含む腸内細菌による複雑性尿路感染症に対して、1日1回のプラゾマイシンはメロペネムに非劣性を示した。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています

 

 

多剤耐性菌は現在の感染症界のみならず医療界における重要課題といえます。2050年には世界中で年間1000万人が耐性菌による感染症で亡くなるという試算もあります1)。

多剤耐性大腸菌による尿路感染症の治療について調べた研究を読みました。

 

Once-Daily Plazomicin for Complicated Urinary Tract Infections.

N Engl J Med. 2019 Feb 21;380(8):729-740.

 PMID:30786187

 

【試験デザイン】

多国籍、多施設、二重盲検ランダム化比較試験。

【背景】

尿路病原性のグラム陰性菌の薬剤耐性が増加しており、深刻な感染症に対する新たな治療戦略が必要である。プラゾマイシンはアミノグリコシド系抗菌薬であり、カルバペネム耐性を含む多剤耐性腸内細菌科に対して殺菌作用を有する。

【方法】

急性腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症(複雑性UTI)の患者609名をランダムに1対1に振り分け、プラゾマイシン点滴(15 mg/kg 1日1回)またはメロペネム点滴(1 g 8時間毎)で投与した。最低4日の点滴治療後、経口薬へステップダウンし、合計7〜10日間の治療をした。主要目的は複雑性尿路感染症治療におけるプラゾマイシンのメロペネムに対する非劣性で、非劣性マージンは15%とした。主要評価項目は5日時点、および治癒評価受診時(治療開始後15〜19日)での複合治癒(臨床的治癒および細菌学的根絶)とし、細菌学修正を加えたITT解析をした。

【結果】

プラゾマイシンは主要効果指標に関してメロペネムに非劣性を示した。5日目で、複合治癒はプラゾマイシン群で88.0%(168/191名)、メロペネム群で91.4%(180/197名)であった(差-3.4ポイント; 95% CI, -10.0 to 3.1)。治癒評価受診時、複合治癒はプラゾマイシン群で81.7%(156/191名)、メロペネム群で70.1%(138/197名)であった(差11.6ポイント; 95% CI, 2.7 to 20.3)。治癒評価受診時、プラゾマイシン群の患者の方が高い割合で細菌学的根絶がみられた。それらにはアミノグリコシド系非感受性の腸内細菌科(78.8% vs. 68.6%)、ESBL産生腸内細菌科(82.4% vs. 75.0%)も含まれた。後期フォローアップ(治療開始後24ー32日)では、プラゾマイシン群のほうが細菌学的再発(3.7% vs. 8.1%)、および臨床的再発(1.6% vs. 7.1%)が少なかった。血清Cr値が基準値を0.5 mg/dl以上超える上昇はプラゾマイシン群で7.0%、メロペネム群で4.0%であった。

 

【結論】

多剤耐性株をふくむ腸内細菌科による複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎に対して、1日1回のプラゾマイシンは、メロペネムと比べて、非劣性を示した。

 

【ほか】

プラゾマイシンはアミノグリコシド系抗菌薬である。アミノグリコシド修飾酵素による修正を避けるように作られている。腸内細菌科における耐性獲得機序のほとんどに対して活性を維持する。

 

【まとめと感想】

多剤耐性を示す菌に対する治療オプションが増えることは望ましいことと思います。しかしながら、病原微生物の耐性獲得ペースに人類の新戦略獲得ペースが対応しきれていない現状は依然としてあると思います。その点をどうしていくか、人類が答えを得、克服できるときが来るのでしょうか。

 

【参考文献】

1) Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for health and wealth of nations, the O’Neill Commission, UK, December 2014

【総説】抗菌薬アレルギー

ランセットの総説です。抗菌薬もアレルギーも、科を問わず扱うまたは遭遇するものです。総説をアウトプットするのは骨が折れますが、学んでみました。

 

Antibiotic allergy.

Blumenthal KG, et al. Lancet. 2019.

PMID 30558872

 

序文

不正確に確定(認定)されたアレルギーは、不必要に広域な抗菌薬や弱い抗菌薬の使用を起こしうる。そして患者安全や公衆衛生に脅威をもたらしうる。

 

【分類、表現形、機序】

まず上位分類としてon-target反応とoff-target反応とに分ける。下位分類として、免疫反応と非免疫反応とに分ける。

バンコマイシンとフルオロキノロンは最も一般的に認識された脂肪細胞活性化物である。それらによる反応はIgE非介在性である。したがって免疫学的表現形を示す反応であるものの、免疫学的記憶は伴わない。IgE非介在性反応は心血管系症状がが出にくい特徴はあるものの、IgE介在性反応と区別することは難しい。

【表】

〜IgE非介在性〜

(症候)紅潮、掻痒、蕁麻疹、血管浮腫、ときにアナフィラキシー

(機序)直接的脂肪細胞刺激または好塩基球刺激、皮膚症状→呼吸器症状→心血管症状

(発症までの時間)数分〜1時間

〜抗体介在性〜

(症候)IgE介在性(Ⅰ型過敏反応)、蕁麻疹、血管浮腫、気管攣縮、アナフィラキシー

(機序)高親和性IgE受容体に結合したIgE交差結合経路を通る脂肪細胞または好塩基球の脱顆粒、掻痒、手掌紅斑、鼻炎、喘鳴、蕁麻疹、血管浮腫、アナフィラキシー

(発症までの時間)1時間以内が多いが6時間までは起こりうる

〜IgG介在性(Ⅱ型過敏反応)〜

(症候)血球減少

(機序)抗原抗体反応;IgGと補体を介した貪食または細胞毒性、溶血性貧血、血小板減少、血管炎

(発症までの時間)多くは72時間以内だが、15日までは起こりうる

〜血清病または血清病様反応(Ⅲ型過敏反応)〜

(症候)発熱、皮疹、関節炎、成人は少ない

(機序)血清病、抗体と免疫複合体の血液循環量が多い

(発症までの時間)数日〜数週間

〜細胞介在性〜

〜(primary?)単一臓器障害〜

〜急性間質性腎炎〜

(症候)皮疹、急性腎傷害、白血球円柱、高好酸球血症、好酸球尿症

(機序)CD4または単球活性化による腎糸球体-間質傷害

(発症までの時間)3日〜4週間

〜薬剤性肝障害〜

(症候)肝炎が主だが皮疹、発熱、好酸球血症もありうる

(機序)CD4陽性T細胞に続いてCD8陽性T細胞およびFasL;TNFαとパーフォリンによる肝細胞死

(発症までの時間)5日〜12週間

〜単発性皮膚病変〜

(症候)斑丘疹、麻疹様発疹、しばしば好酸球血症ともなう

(機序)好酸球性炎症、IL-4, 5, 13またはエオタキシンを介して(Ⅳb型過敏反応)

(発症までの時間)数日〜数週間

〜固定薬疹〜

(症候)暗い中心を伴う紅斑or浮腫様皮疹(多くは唇、舌、顔、性器)、灼熱感や疼痛あり

(機序)活性化した皮内CD8陽性T細胞がIFNγと細胞毒性顆粒を放出

(発症までの時間)数日〜数週間

接触性皮膚炎〜

(症候)水疱を伴う紅斑や浮腫

(機序)単球性炎症(Th1とIFNγ)

(発症までの期間)数日〜数週間

〜全身性または多臓器病変〜

〜薬剤反応性好酸球血症および全身症状症候群〜

(症候)発熱、皮疹、好酸球血症、リンパ節腫脹、臓器障害(肝や腎)

(機序)CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞による皮膚浸潤

(発症までの期間)2〜6週間

〜アバカビル過敏症候群〜

(症候)発熱、倦怠感、消化器または呼吸器症候群;皮疹は軽度〜中等度で、70%で遅発性

(機序)CD8陽性T細胞による抗原結合cleftへの非共有結合

(発症までの期間)数日〜3週間

〜Stevens-Johnson症候群、TEN〜

(症候)落屑を伴う皮疹、粘膜炎や発熱を伴う粘膜病変(口、目、性器)

(機序)CD8陽性T細胞によりパーフォリン、グラニュリシン、グランザイムBまたはFasL(ケラチノサイト死、Ⅳc型過敏反応)

(発症までの期間)4日~4週間

〜急性汎発性発疹性膿疱症〜

(症候)非濾胞性で無菌性に広く広がる急性膿疱性皮疹、発熱・顔面浮腫・好中球増多を伴う、25%で口病変を伴う

(機序)IL-8およびG-CSFを介したT細胞による(好中球性炎症、Ⅳd型過敏反応)

(発症までの時間)48時間以内

 

【疫学】

代表的カテゴリーはβラクタム系薬である。ある研究では5~10%の患者カルテにはβラクタム系アレルギーの記載があった。また5~15%の患者カルテにペニシリンアレルギーの記載があったとの報告や、1~2%でセファロスポリンアレルギーの記載があったという報告もある。薬剤アレルギーの記載頻度は女性で多かった。この性差は小児患者ではみられなかった。

担癌患者では23~35%という有病率で薬剤アレルギーの報告があった。HIV/AIDS患者でも高頻度の報告があり、非HIV/AIDS患者の10~100倍であった。

〜確認されていない抗菌薬アレルギー記載〜

ペニシリンアレルギー記載のある入院患者において皮膚テストや内服チャレンジをすると、95%がアレルギーが無く、アレルギー記載を削除された。ペニシリンアレルギー記載のある外来患者でも、98%以上がペニシリン使用可能であったという報告もある。

〜抗菌薬アレルギー記載の影響〜

ペニシリンのみへのアレルギー記載がある患者の場合、代替薬が使用される。それらはより広域で効果が弱く、有害事象が増える(例:バンコマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、フルオロキノロン)。

〜医療関連感染への影響〜

ペニシリンアレルギー記載のある患者では、無い患者と比べてC. difficile発症が23~26%多いという報告がある。

アメリカにおける8385名の周術期患者のうち、ペニシリンアレルギー記載のある患者は抗菌薬の選択やタイミングに起因する手術部位感染症オッズ比が50%増加した。ペニシリンアレルギーとセファロスポリンアレルギーとで交差反応を示す患者は2%未満、カルバペネムに対してはペニシリンもセファロスポリンも1%未満である。

〜抗菌薬耐性への影響〜

あるイギリスの報告では、2050年までに世界中で年間1000万人が耐性菌によって死亡しうると予測している。

 

【過敏反応が疑われる場合の診断と対応】

 図4 抗菌薬アレルギーの診断アプローチ

IgE介在性;脂肪細胞や好塩基球

→病歴、診察、肥満細胞トリプターゼ →迅速発症(分〜1時間、最長6時間)→皮下試験または皮内試験→薬物チャレンジ(上記試験が陰性のとき)→好塩基球活性化テストまたは血清特異的IgE

T細胞介在性

→病歴、診察、表現形スコア、薬剤原因評価、直接蛍光抗体法を用いた病理組織検査→遅延性(6時間より長い)→パッチテストまたは皮内試験→薬物チャレンジ(重症薬疹や単一臓器障害が除外された時)→リンパ球幼若化試験、薬剤特異的T細胞に対するELISpot assey、HLAタイピングその他の薬理遺伝的リスク塩基試験。

 

ペニシリンアレルギー脱標識プログラムには想定される障壁もあるものの、βラクタム系を再評価することは感染症診療と抗菌薬適正使用を改善することにつながる。他方、薬剤過敏性を明らかにすることは過敏性発見を促し、理想的で好ましく、そして喫緊の必要性があるアウトカム改善につながる。

 

【Saitsunoxの感想】

 抗菌薬アレルギーにこのような分類があり、そしてこれほど多くに分類されるとは知りませんでした。これまで「薬疹?」としてきた中には(実際にはアレルギー以外もふくめ)多様な病態を一緒くたにしてしまっていたんだろうな、と反省しました。

 最近、発熱・倦怠感・関節痛発症後に麻疹様にも見える紅丘疹を呈した症例を経験しました。白血球減少と血小板現象を伴いました。麻疹・風疹抗体価はIgM陰性、IgG陽性。IgG介在性(Ⅱ型過敏反応)または単発性皮膚病変なのかな、と推測しましたが確定することできず皮疹は消退しました。好酸球は増えていませんでした。

【原著】骨・関節感染症に対して、6週間の内服抗菌薬は、静注に比べて1年予後は劣らない。

*文献を翻訳した内容の部分は黒色で記載しています。

*Saitsunoxの考えた内容の部分は青色で記載しています。

 

長期の抗菌療法が必要な感染症は患者にとって大きな負担になります。経済的観念は当然のことながら、生活の観点からも負担でしょう。点滴が必要であれば退院は困難であり、生活の質(QOL)は大きく損なわれると思います。

この点について調べた研究を読みました。

 

Oral versus Intravenous Antibiotics for Bone and Joint Infection.

Li HK, et al. N Engl J Med. 2019.

PMID 30699315

 

【試験デザイン】

多施設、オープンラベル、並行グループ、ランダム化比較、非劣性試験。

【背景】

複雑性整形外科感染症では、常に長期の静注抗菌薬治療がなされる。経口抗菌薬治療が静注薬と比べて非劣性かどうか調べた。

【方法】

英国にある26施設の骨または関節感染症治療を受けている成人患者を組み入れた。術後7日(非手術例では抗菌療法開始から7日)以内で、治療のはじめの6週間を静注群と経口群とにランダムに振り分けた。両群において引き続き経口抗菌薬を使用することは許可。主要評価項目はランダム化1年後以内の確定的な治療不良。非劣性マージンは7.5%。

【結果】

1054名の参加者(各群527)の中で、終了時データが利用可能だったのは1015名(96.3%)。治療不良は静注群で74/506名(14.6%)、経口群で67/509名(13.2%)。終了時の欠損値(39名、37%)は補完処理された。ITT解析で確定的な治療不良のリスク差は-1.4%(90% CI, -4.9 to 2.2; 95% CI, -5.6 to 2.9)と、非劣性が示された。完遂例、per-protocol例および感度分析でも本結果を支持するものであった。各群の有害事象発生率に有意差はなかった(静注群146/527(27.7%)、経口群138/527(26.2%) )。副次評価項目としてのカテーテル合併症は静注群で多かった(9.4% vs 1.0%)。

【結論】

複雑性整形外科感染症に対して用いられる経口抗菌薬は、1年の時点では静注と比べて劣らなかった。

 

【まとめと感想】

本研究における整形外科感染症とは、具体的には骨髄炎、関節形成術を要する自己関節感染症、整形外科デバイス感染、椎体骨髄炎。重症度や複雑性に目立った偏りはなさそうです。

抗菌薬の選択は感染症の専門家がおこなった、とのことです。薬剤種など具体的使用方法について記載は本文中には見当たりませんでした。

本研究の抗菌薬使用の妥当性については感染症の専門家によって担保されています。つまり本研究結果を臨床に反映しようとする場合、感染症の専門家が参画することが必要である、とも言ってよいのではないでしょうか。

【総説】デング熱

 初めまして、Saitsunoxです。日本の都会ではない地方病院で、一般内科医をしています(現在卒後8年目)。

 

 私は日々の学習材料としてビッグジャーナルの総説や教育コンテンツ、そして一部の原著論文を読むことを日課としています。その独学をすること自体は軌道に乗ったころ、自分の身になっている実感が乏しいことに気づきました。そこで、アウトプットして定着を促すこととしました。自分のための備忘録が主目的な、独りよがりの記事になるかもしれません。しかしもし訪れてくださった方がいれば、この学びを共有したいとも思い本ブログを開設しました。

 

 ということでブログの1件目、デング熱に関するランセットセミナーです。

 

Lancet. 2019 Jan 26;393(10169):350-363.

Dengue.

Wilder-Smith A, Ooi EE, Horstick O, Wills B.

PMID: 30696575

 

【導入】

  デング熱は急性節足動物媒介感染症であり、多くの熱帯・亜熱帯地域に対して大きな社会的・疾病的側面での負荷を与えている。ヒトスジシマカという蚊によって媒介されることで、デング熱は熱帯・亜熱帯でみられる。そしてヒトスジシマカ生息地域には30億人以上の人口がいる。近年の感染拡大の原因として、地球温暖化によってヒトスジシマカ生息地域が拡大していることも一因であるが、それ以上に主要なもの、それは人口増加に伴う密度上昇、田舎から都市部への人口移動、都会の環境悪化、信頼できる水道水の欠如、そして蚊対策の組織性不足・予算不足。デングウイルス(DENV)はフラビウイルス属に属するRNAウイルス、4つの血清型に分類される。RNAがコードする蛋白は構造蛋白と非構造蛋白に分けられる。診断で用いられるNS1は後者に属する。

【重症デング熱の病態生理】

 ~antibody-dependent enhancement(抗体依存性感染増強;ADE)~

 一度ある血清型のDENVに感染すると、二度目に異種のDENVに感染した際に重症化する。この重症化の背景機序とされるのがADEである。交差反応性抗体または中和濃度以下の抗体は異種DENVに結合して、単球、マクロファージ、および樹状細胞などの標的細胞上に発現されるFc受容体を介したウイルス侵入を促進するとされている。これによってADEが炎症反応と抗炎症反応との不均衡を起こし、毛細血管内皮傷害、血管外漏出、そして循環血症量減少性ショックを起こす。これをデングショック症候群と呼ぶ。ADEが起こるのは、患者血液が限られた範囲内の抗体タイター値をもつ場合です。それよりタイター値が低い場合、Fc受容体がより活性化する。反対にタイター値が高い場合、抑制性Fcγ受容体、つまりFcγRIIBを共連結するために、より大きなウイルス凝集体を形成することになる。

*このあたりの説明はうまく理解できませんでした。ただし、ウイルス量と抗体量とが適度なバランスでないと、 ADEが起こらないらしいです。

 病態にウイルス構成要素が与える影響はまだ十分に分かっていないが、最近明らかになってきたものはNS1。NS1は六量体の形で感染細胞から排出され、保体やレクチン介在性の中和からウイルスを守る。加えて、NS1は内皮細胞の多糖体を破壊する可能性も示唆されており、この作用がデング関連血管外漏出に関与しているよう。NS1の毒性が解明されるにつれ、今後は抗ウイルス療法やワクチン開発の対象に研究が移ってきている。病態に関与する宿主因子として、遺伝子多型もいくつか示されている。とくにOSBPL10やRXRAという遺伝子はアフリカ系人種において重症デングを減らすことが示唆されている。伝播は、感染したメスの蚊に咬まれることで起こる。ただし、輸血や針刺しでも起こりうる。精液による感染例や母乳による感染例は報告されていない。

【臨床像】

下記の主要合併症が無ければ、単なる「デング熱」。

下記が有れば、「重症デング熱」。

⑴デングショック症候群、呼吸窮迫症候群

⑵重症出血

⑶重症臓器不全

〜リスクグループ〜

新生児、および妊婦はハイリスク。妊婦では早産、退治死亡のリスク増。

〜臨床期〜

まず、潜伏期は4〜7日が多いが、最長14日。病期は3つで発熱期、critical期、回復期。

 発熱期には、急な悪寒、高熱。3〜7日続く。全身症状あり(頭痛、倦怠感、眼後部痛、関節痛、筋肉痛、骨痛、悪心嘔吐、味覚違和感)。呼吸器症状があるとインフルエンザと区別しやすい。診察では紅斑、紅潮、眼球結膜or咽頭の充血、出血傾向、全身のリンパ節腫脹、肝腫大。ターニケットテストは陽性になりうるが特異的なものではない。

 Critical期では、血管外漏出症候群がもっとも注意。第4〜6病日で本時期に入ることが多い。しかし10%の症例では発熱期の受診時に、ショックでやってくる。漏出が重度だと脈圧低下(≦20mmHg)、呼吸窮迫起こす。漏出は48〜72時間で改善する。他には出血、肝障害、CNS障害、心障害、眼障害など。

 回復期では、1〜2週で完全に回復する。回復後、疲労感や抑うつが残る報告あり。紅斑が続いて数週間かけてゆっくり消退することもある。10日以上の発熱は細菌の重複感染を考える。または血球貪食症候群も鑑別。

 検査では、白血球減少と血小板減少は発熱期にはほぼ必発。異型リンパ球が増えることも多い。凝固異常を反映してAPTT延長、Fib濃度減少。AST・ALTは上昇。これらはALP上昇と比べて相対的に高い。低タンパク血症は漏出の重症度指標になるが、逆に血液濃縮でマスクされるかもしれない。

 重症化リスク予測の試みはあるが、現時点ではエビデンス不足。

【診断】

第5病日までは培養細胞からのウイルス分離、RT-PCR、NS1のような抗原。

第5病日以降はNS1のみ有用。しかしNS1もIgMも感度・特異度高くない。

【マネジメント(治療)】

ウイルス自体に対する薬剤は、治療・予防両面で既存薬にエビデンスの示されたものは無い。新たな抗ウイルス薬の研究がされており、NS4B阻害薬が最も有力。宿主の免疫を抑制する方法(主にステロイド)の有用性は1980年代にすでに否定されている。その後の検討でも明確な効果は示されず、コクランレビューではデングショック症候群、早期デング熱ともにエビデンス不十分の結論であった。支持療法が重要だが、デングショック症候群については早期認識と迅速な補液が不可欠。血管障害が回復する24〜72時間に十分量を補液する。中等度〜重度の血小板減少に対する予防的血小板輸血の是非には議論があり、結論は出ていない。

ベクターコントロール

2020年までに死亡率・罹患率を下げることを目的として、WHOは包括的なベクターマネジメントを推奨している。ベクターコントロールには大きく分けて三つある。1つ目の生物学的方法では、蚊を幼虫段階で制御するために細菌を使ったり、幼虫を摂食する虫やプランクトンを使う。2つ目の化学的方法では、temphosやpyriproxytenを用いる。3つ目の環境的方法では、蚊が吸血する場所を減らす。

ネッタイシマカのコントロールについて2つの新たなアプローチあり。1つ目は、Wolbachiaに感染した蚊を増やす。2つ目は、RIDLと呼ばれる方法。致死的な遺伝子をネッタイシマカに挿入する。

【ワクチン】

2015年、CYD-TDVという遺伝子組み換え、4価の弱毒生ワクチンが承認された。黄熱ワクチンを基に開発された。ワクチンの効果は様々な結果が示されている。ウイルスの血清型、ベースの患者の血清の状態、年齢が影響しているよう。DENVに対する抗体が陰性の者にワクチン接種をし、その後にデング熱に罹患すると重症デング熱になりやすいという報告がある。これを受けて、WHOはワクチン接種を検討している国に対して、接種対象者への抗体保有の有無を事前スクリーニングすることが望ましい、という推奨を出した。

【将来的な困難と展望】

point of care のNAAT(拡散増幅)検査、1つの検体で複数の抗原を検出できる検査キットが開発中。

CYD-TDV試験からの教訓が3つ。(1)ベースラインの血液サンプルが必要(現在の第3相試験では実施)、(2)免疫反応について防御と感染増強との相互関係を特定する必要がある、(3)現在の免疫原性を調べるために使用される中和抗体検査は、中和作用をもつ血清型特異的な抗体と中和作用をもたない交差反応性の抗体とを区別できないこと。

 

【Saitsunoxの感想】

 デング熱は本邦でも持ち込み例・国内発症例が報告され、総数は増えていると聞きます。一般内科医である自分も備えが必要と考えてレビューを読みました。

 本文献は疾患の概説でしたので、デング熱について“詳しく”なることはできたように思います。実際に診断が求められる場面では、渡航歴の聴取に始まり、潜伏期の推定、臨床像の検討から他疾患と区別することが求められるでしょう。その点(実臨床でどう診断し治療につなげるか)については本文献の範囲外だったようですので、他の資料で学ぶ必要がありそうです。